10年ほど前、僕は『うまい、と言われる1分間スピーチ』(つちや書店)という本を出しました。
日経新聞の第一面に10回以上広告が載り、よく売れた本です。
さて、この本の「はじめに」に、この本で伝えたいことを「たった1行」で表すと、次のようになると書きました。
それは……
「。」の聞こえるスピーチを!
という1行です。
「。」は文の終わりに付ける記号ですよね。
「。」には音がないので、それが聞こえるスピーチとは、変なことを言うな、と思った読者もいたことでしょう。
僕が言いたかったのは、「。」は文の区切りの「間」。
これが聞こえないということは、区切りがはっきりしない話し方、あるいは、文の語尾が消え入るようになってしまい、どこで終わったかわからないような話し方をしているということ。
このようなスピーチは、聞き手を疲れさせるだけでなく、結局何を言いたいのか伝わりません。
「。」がくっきりと聞こえるような話をすると、自信にあふれ、主張の明確なスピーチになります。
これは、書く文章でも同じです。
1文1文が長く、「。」が文の中に埋没している文章よりも、「。」がくっきりと浮き立って見える文章は、そもそも見たときの快感が違います。
僕の本で恐縮ですが、ひとつ例をお見せしましょう。13刷のロングセラーとなった『すごい言葉』(文春新書)の冒頭です。
「一度読んだら、一生忘れられなくなる言葉がある。そんな「すごい言葉」ばかりを集めてみたら、このような本になった。「すごい言葉」とは、例えば、こんな具合だ。」
文章を見ただけで、「。」の位置が目に入ってきませんか。
しかも、等間隔で「。」が使われているので、自ずと文にリズムが生まれています。
この本がよく売れたのは、冒頭から読者をリズミカルな文章に引き込んだのも一因かもしれません。
今日の教訓:「。」の聞こえるスピーチを。「。」の見える文章を。