ビジネスの世界もユーモアと無関係ではありません。
傑出したビジネスマンの発想は、常人の常識では測れず、ユーモラスに感じられることがあります。
思い出すままに、例をあげてみましょう。
イタリア系移民の子、A・P・ジアニーニが1904年に設立したバンク・オブ・イタリーは、1906年のサンフランシスコ大地震で被害を受け、閉店の危機にさらされました。しかし、ジアニーニは周囲の制止を振り切り、なりふりかまわず銀行業務を続行しました。
その店舗は、ふたつの樽の上に厚板を渡しただけの粗末なものでしたが、彼は震災で被害を受けた個人や中小企業のために再建資金の融資を行なったのでした。
この混乱状態の中で彼が選んだ融資の条件は、まさに奇想天外なものでした。
その融資条件とは、「手にタコができていること」でした!
手にタコのできているような人物なら、必死に再建に取り組むだろう、とジアニーニは考えたのです。
そして、彼の考えは間違っていませんでした。
1ドルの損失も出さず、危急の中にある多くの市民を救ったのです。
それにしても、何もかも失った人たちの唯一の財産は「手にできたタコ」、というのは何ともいい話です。
常識にとらわれた多くの同業者には思いもつかぬアイディアでした。その後、ジアニーニはバンク・オブ・アメリカを買収し、名実ともにアメリカを代表する財界人となったのです。
もうひとつ、例をあげましょう。
1998年、ノキア社はモトローラ社を一気に追い抜き、携帯電話の製造で一位の座に躍り出ました。
翌年、ノキア社のCEOヨルマ・オリラは四人の事業部長を本社の会議室に呼び出しました。そして、オリラが彼らに言い渡したのは、奇想天外な辞令でした。
それは……
4人の仕事を互いに交換しろ、というものだったのです。
まるでトランプの「ババ抜き」のような子供じみた指示でした。
しかし、その後、ノキア社はますます力を増し、驚異的に売り上げを伸ばしていったのです。
管理職の「椅子取りゲーム」は、組織を停滞させないためのオリラ一流の戦略だったのですね。(講談社刊『成功にはわけがある』参照)